事業用の銀行口座から生活費を引き出したり、残高不足で支払いができないので個人用の口座から資金を移動したときは、どのように処理すればいいでしょうか。プライベートのお金がからむときに使うのが「事業主貸」「事業主借」という勘定科目です。2つ合わせて「事業主勘定」と呼ばれます。
事業主勘定は個人事業主の経理にだけ登場する勘定科目なので、一般的な簿記の教科書には出てきません。しかし、おそらくフリーランスや個人事業主の経理ではいちばんよく使う勘定科目なので、ぜひその意味を理解しましょう。
そもそも「事業主勘定」とはどういうもの
事業所得を計算するときにプライベートなお金の動きを含めると数字がおかしくなります。freeeで同期設定を行っていると、銀行口座から引き出した生活費や、仕事用のカードでの個人的なお買い物までいっしょに取り込まれてしまいます。そこで、事業主勘定を使って、プライベートな収入・支出を無視してしまうのです。
freeeにはネットで同期した銀行口座やカードの明細を「無視」するという機能がありますが、プライベートな取引に「無視」機能を使ってはいけません。事業主勘定を使ってプライベートなお金の動きを無視するようにします。
freeeの「無視」を使うのは、主に銀行間での資金移動です。A銀行からB銀行にお金を移したとき、「A銀行で出金」「B銀行で入金」とそれぞれ取引を登録すると、同じ取引について二重に登録することになるため、どちらか片方を「無視」します。
「事業主貸」は事業用資金をプライベートで使ったとき
事業主貸(じぎょうぬしがし)とは、事業用の資金をプライベートに利用するときに使う科目です。
次のようなケースで事業主貸という科目を使います。
- 事業用の銀行口座からプライベートな資金を引き出した(生活費やおこづかいなど)
- 事業用の銀行口座から事業に関係のない引き落としがあった(個人用のクレジットカードの引き落としなど)
- 事業用のクレジットカードでプライベートな買い物をした(事業用とプライベートのカードを分けていない場合など)
事業用のA銀行口座から生活費を引き出した
事業主貸 100,000 / A銀行 100,000
事業用のBカードでプライベートな買い物をした
事業主貸 30,000 / Bカード 30,000
国民健康保険料がA銀行口座から引き落とされた
事業主貸 16,500 / A銀行 16,500
事業に関係のないプライベートな支出ですが、その中には次のような支出もプライベートな支出に含まれるので注意! 迷ったときはとりあえず「仮払金」としておき、後でまとめて税理士に問い合せるといいでしょう。
- 社会保険料(国民健康保険、国民年金など)は「保険料」ではなく「事業主貸」です。
- 民間の保険料(生命保険、医療保険、傷害保険など)は「保険料」ではなく「事業主貸」です。ただし、事業用に使用している建物や車両に対する保険料は事業上の経費になるので、「保険料」です。
- 税金(所得税、住民税)は「租税公課」ではなく「事業主貸」です。同じ税金であっても、消費税や事業税、印紙税などは事業上の経費になるので「租税公課」です。また、事業用に使用している建物にかかる固定資産税など、事業用の車両にかかる自動車税なども事業上の経費になるので「租税公課」です。
「事業主借」はプライベート資金で事業用の支払いをしたとき
事業主借(じぎょうぬしがり)とは、事業用の出費をプライベートな資金から支払ったときに使う科目です。個人事業主が自分のサイフから仕事用のお金を出したときは事業主借になります。
次のようなケースで事業主借という科目を使います。
- 事業用の口座の残高が足りずに支払いができないため、事業用口座にプライベートな資金を入金した
- 個人の銀行口座から仕事に必要な支払いを行った
- 個人のクレジットカードを使って仕事に必要な買い物をした
事業用のA銀行口座にプライベート口座から資金を移した
A銀行 200,000 / 事業主借 200,000
仕事に必要な書籍を個人のクレジットカードを使って購入した
新聞図書費 5,000 / 事業主借 5,000
事業用のA銀行口座に利子が入金された
A銀行 15 / 事業主借 15
最後の例、事業用口座の預金利子ですが、預金の利子は事業の収入ではありません。利子は個人事業主が受け取るべきもの。その個人のお金が事業用口座に入ってきたわけですから、事業主借として処理します。
プライベートな支出・収入はすべて「事業主貸」でOK
ここまで「事業主貸」「事業主借」の意味を説明してきましたが、実際に入力を行っていると、「これって事業主貸と事業主借のどちらだっけ?」と迷うことが出てきます。どちらか迷ったときは「事業主貸」を使ってください。
重要なのは事業主勘定を使ってプライベートなお金の動きを無視するというところ。実は事業主貸と事業主借を使い分けず、すべて事業主貸(またはすべて事業主借)で処理を行ったとしても、最終的な計算値は同じになります。
なぜそうなるかは説明し始めると長くなるし、簿記の知識も必要になります。あまり深く考えずにすべて事業主貸を使っても大丈夫です。
複式簿記が分る方への解説です。
「事業主貸」は借方、「事業主借」は貸方に来ます。
意味を考えることなく、そういうものだと覚えてください。
この2つの勘定科目が利用されるのは、元入金を計算するときです。
元入金とは個人事業における資本金みたいなものですが、実態があるものではありません。
貸借対照表の借方と貸方を一致させるためのバーチャルな数字です。
元入金は貸借対照表の資産と負債の差額に等しくなっています。
資産より負債の金額が大きければ、元入金はマイナスになります。
元入金の金額は毎年変わります(ここが法人の資本金と違うところ)。
年度が始まるたびに次の式で計算します。
そして、期首から期末まで元入金の金額が変わることはありません。
翌期首の元入金=期首の元入金 + 当期の損益 + 当期の事業主借 - 当期の事業主貸
事業主貸と事業主借が登場するのは、この計算を行うときだけです。
仮に2つの勘定科目を取り違えたとしましょう。
事業用カードでプライベートな物品を購入したときを考えます。
(正)事業主貸 3,000 / 事業用カード 3,000
(誤)事業主借 3,000 / 事業用カード 3,000
上の正しい仕訳では、事業主貸の残高が3,000円増えます。
翌期首の元入金は3,000円減ることになります。
上の式に代入してみてください。
下の間違った仕訳では、事業主借の残高が3,000円減ることになります。
翌期首の元入金は3,000円減ることになります。
正しい仕訳と同じ結果になりました。
ですから「事業主貸と事業主借かどっち?」と迷ったら、「事業主貸」を使っておけば大丈夫です。
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