インターネットで会社を作る(前編)

会社設立

2008年7月、私がフリーランスのライターだった頃、個人事業主をやめて会社を作りました。そのとき、なるべく設立費用を節約しようと考え、定款認証から登記まですべてオンライン手続きで行いました。オンライン申請の情報がほとんどなかったので、登記完了までほんとに大変でした。

その奮闘記を昔のブログに掲載していたのですが、いつの間にか消えているようなので、新しいブログに転載します。古い情報なのでそのまま今の手続きには役立たないですが、当時の雰囲気を感じていただければ幸いです!

今から10年以上前の情報なので、リンク先のほとんどが切れています(切れたリンクは取り消し線で示しています)。また、サービスやアプリも変わっています。

インターネットで会社を作る(1) ~会社を作ろうと思ったきっかけ

どちらかというと優柔不断な性格で、
レストランとかに入ってもなかなかメニューを決められない。
しかし、人生の節目においてはあまり物事を深く考えず、
勢いで決めてしまうことが少なくない。
会社をやめたのも、結婚をしたのも、家を買ったのもすべてそうだ。
妻とは初めてデートをした一週間後にはプロポーズをしていたし、
家を買おうと決心した二週間後には家を見つけて契約をしていた。
(さすがに家を買うときは妻に「ちゃんと考えろ」と言われた)

会社もそうである。
「会社を作るぞ」と思いついたのが6月の下旬。
それからいろいろ書類をそろえて、
7月7日に設立準備を終えて登記申請し、
7月15日に晴れて登記が完了した。
その気になれば半月で会社ができるのだ。

会社を作ろうと思ったきっかけは、
ある日、送られてきた一通の郵便物である。
差出人は区役所。
中身は国民健康保険料の納入通知書だった。
学生のときのアパートの家賃よりも保険料の方が高い?
(六畳一間風呂無=弐万七千円)

会社員のころは税金とか保険料とかは給料から天引きされるが、
自営業だと確定申告で所得税の計算をするし、
住民税や健康保険料、国民年金など納付書が送られてくる。
国や区は口座振替で支払えとうるさいのだが、
自分は毎回郵便局や銀行に現金で支払にいくことにしている。
自分がどれだけの負担をしているのかが身にしみてわかる。

まあ今年の保険料も去年とそう違いはないのだが、
どうしてだか、昔のアパートの家賃と比較してしまい、
急に保険料を支払うのがもったいなくなり、
「そういえば会社にすると税金が安くなる!」という話を思い出し、
それならきっと保険料も安くなるはずだと考え、
すぐにエクセルに打ち込んで試算してみた。

現在の売り上げから経費を引き算し、
残りを12で割った金額を毎月給与として自分に支払う。
今年の確定申告書を引っ張り出してきて、
売り上げと経費、税率などをエクセルに打ち込むと、
すぐに所得税、住民税、健康保険料の額が出てくる。
なんと会社にすればウン十万円も安くなるじゃあないか。

いや待て。
もっとすごい方法を思いついた。
一人会社だったら自分の給料は自由に決められる。
所得控除と給料の額を一致させれば、
所得税も住民税もゼロにできるはず。
エクセルの計算式をちょこちょこと変更すれば、
税金と健康保険を合わせても年間の負担は数万円にできる。
よし! これで行こう!

だが、このスキームにはひとつ大きな問題点があった。
法人税のことをすっかり忘れていた(バカ)。
会社に利益が残るとそこで法人税を支払う必要がある。
しかし、法人税を含めて計算をやりなおしても、
それでもまだ個人事業でやるよりは安い。

もう一つの問題が、
会社に利益を積み上げていき、
最終的にはどうやって受け取ればいいのか。
自分一人の会社とは言っても、
会社の金を勝手に使っては横領なのだ。
いや役員報酬として処理されるのかな?
それならいっぱい税金がかかってくるぞ。

やっぱり素人考えではダメだなあ。

ここで急に思い出したのが、
妻の友だちが最近会社を辞めて独立したこと。
確か最初から会社にしたと聞いた。
なんでも知り合いの税理士がすべて面倒みてくれたとか。
知り合いの知り合いは知り合いだということで、
今回の税金ゼロ計画を相談することにした。

インターネットで会社を作る(2) ~会社を作ってもくたびれもうけ? 税金は大して安くならず、手間ばっかり増える?

知り合いの税理士さん、
妻も顔見知りだと言うことで気楽に考えていたら、
あいさつのときに名刺までいただいて、
こっちはTシャツにサンダルばきなのに、
ちょっと気まずい思いをしました(笑)

それはさておき、
現状をさくっと説明して、
会社にするメリットがあるか聞いてみたら、
「個人でやった方がいい。会社にするといろいろ面倒」という答え。
「大きくしたい」と夢があって会社にするならともかく、
節税だけで会社にしても苦労ばっかり増えるとのこと。

会社にするデメリット。

  1. いいかげんな帳簿付けはできない。法人の事務量は個人よりもずっと多い。個人のときみたいに、ふだんはほったらかしで、決算前にやっつけるなんてことはできない。
  2. とうぜん一人ではできないので、税理士と顧問契約を結ぶ必要がある。月5万円くらいが相場だけど、自分で帳簿を付けるならもっと安くできるかも。どちらにせよ年間でウン十万円の費用がかかる。
  3. 税務調査が入る。個人ならよほど不自然な申告をしない限りは調査は入らないけれど、法人ならまず間違いなく調査にくる。そして、その応対をしなければならない。いい加減な処理をしているとつっこまれて痛い目にあう。

要するにちょっとくらい税金が安くなっても、
税理士の顧問料でその一部が消え、
(売り上げによっては顧問料の方が大きくなる可能性も)
さらに経理の手間が増えてしまう。

だって、ネットを見たら、「法人になると税金が安くなる」って書いてあるじゃない!

それは税理士が顧客を獲得するため。

知り合いの知り合いの税理士さんによると、
「お友だちということでアドバイスするけど、
何百万というレベルの売り上げで会社をつくるメリットはゼロ。
普段はこんなことはっきり言わないけど…」

確かになあ。
うちの規模だと手間ばっかり増えて割に合わない。
うーん、
どうしようかなあ、
かなり気持ちが盛り上がっていたんだけど。

それから丸1日悩みました。
けっきょく、
経営者、会社役員、社長になりたい!
という誘惑が勝ちました。
それは冗談として、
会社にしてもおそらく損はしない。
手間は増えるけれどそれも勉強。
今までフリーター→会社員→自営業という道をたどってきたけど、
経営者になるという経験を、
人生の中で一度はしておいてもいいじゃないか。
大変だったら個人事業に戻せばいいんだし。

こうして会社作りがスタートしました。

インターネットで会社を作る(3) ~電子定款とオンライン申請システムとは

会社を作る動機のひとつに、
「電子定款」と「法務省オンライン申請システム」を、
実際に使ってみたかったことがある。

会社の作り方をおおざっぱに言えば、
(1)「定款」を作って公証人の認証を受ける
(2)法務局に商業登記の申請を行なう
の2ステップになる。
具体的な手続きを紹介する前に、
まずは会社作りのポイントと電子化するメリットについて見ておきたい。

電子定款を選ぶメリットとは

定款というのは会社の憲法みたいなもので、
会社の名称や目的はもちろんのこと、
株式の発行方法、株主総会の開催方法などを定めたもの。
たとえば定款には株式を勝手に売り買いできないように定められる。
知らぬ間に株が人手にわたって丸裸にされるなんてことを防げるのだ。

この定款を最初に作るのだが、
勝手に改変できないように公証人のチェックを受け、
原本が公証役場の金庫に保存される。
通常は紙に印刷したものを3部作り、
1部は会社に保存、1部は公証役場に保存、1部は法務局に提出する。

電子定款とは、
通常は紙で保存する定款を電子データとして作成・保存するものだ。
定款のファイルは会社の発起人と公証人の電子署名をほどこした上で、
公証役場のコンピュータに保存されることになる。

電子定款を選ぶメリットは、
(1)紙だと製本したり、たくさんのハンコを付いたり、物理的に大変
(2)紙だと4万円の収入印紙を貼らないとダメだが、電子認証なら不要
の2つだろう。
特に後者の「4万円安く会社ができる」というメリットが大きく、
最近は電子定款を選択する人が増えていると聞く。

ただし、電子定款には発起人の電子署名が必要になる。
かつてはここがネックになって一般人は電子定款を選択できなかったが、
地方自治体による「公的個人認証サービス」によって、
安価に電子証明書を取得できるようになり、
個人でも電子定款を選びやすくなった。

そうは言っても、
これまでファイルに「電子署名」をした経験がある人はいらっしゃいますか?
自分も今回が初めての経験です。
「本当にこのやり方で正しいんだろうか?」と、
最後までドキドキしながら操作したことを覚えています。

法務局へのオンライン申請はあまり普及していない

定款を作って認証を受けたら、
もう会社作りは半分以上終わったようなもの。
次は法務局に商業登記の申請書を出す。
登記と言えば不動産登記の方が一般人にはなじみが深い。
法務局にいけば土地や建物の所有者や権利関係を記した登記簿を、
誰でも見ることができる。
商業登記は会社の概要を登録しておくもので、
やはり法務局に備え付けの登記簿には、
会社の名称や目的、役員の名前などが記載されている。
やはり申請すれば誰でも登記簿を見られる。
だから、会社で取り引きするときは登記簿謄本の提示が求められたりする。
会社の戸籍か住民票だと考えればいいんでしょうか。

申請書を提出した日が会社の設立日となるのだが、
実際は登記が完了したところで対外的に会社のスタートとなるだろう。

さて、通常は法務局に紙の申請書を提出するのだが、
2003年3月に「オンライン申請システム」がスタートした。
専用の申請ソフトをコンピュータにインストールし、
申請に必要な項目を入力する。
そして、ネットにつないで法務省のサーバーに送信。
後は審査の結果がネットで通知される。
ただ、地元の法務局がオンラインに未対応だと使えないはず。
(まだ未対応の法務局がどれくらいあるか分かりませんが…)

電子定款は「4万円安くなる」というメリットがあったが、
オンライン申請の割り引きは「5,000円」にとどまる。
しかも完全にオンラインで完結するわけではなく、
印鑑登録など一部の書類は紙で提出する必要がある。
今ひとつメリットが見えてこないので、
電子定款を選んでも法務局への申請は紙という人が多いようだ。
そういう事情でネットにもオンライン申請の情報はあまりない。

しかし、オンライン申請の方がスムーズだというメリットはある。
審査の結果はネットで通知され、
補正(申請書の不備を訂正すること)があるときは、
すぐにその内容が通知され、
即座に補正の手続きができる。
紙でやるなら法務局を何度も往復する必要がある。
(運が悪いとオンラインでも何度も往復を強いられる)

基本をおさえたところで、
次回は電子定款の作成と認証の方法を見ていく。

インターネットで会社を作る(4) ~念のため手続き前に商号調査をしておく

会社作りで最初にすべきことが、
商号、すなわち会社の名前を決めることだ。
あんまり名前にこだわりはなかったので、
妻のアクセサリー教室の名前「アルジェント」をそのまま使うことにした。
(会社は自分と妻の2人でやる予定)

前株にするか?
後株にするか?
10回繰り返して読んでみて語呂のいい方にしよう。

ということで、
「株式会社アルジェント」
に決定。

かつては「類似商号の禁止」という規定があって、
同じ市区町村内に同じ商号の会社があったときは登記できない、
という制限があったけど、
2006年に施行された会社法でこの規定がなくなった。

しかし、念のために法務局に出向いて、
同じ商号の会社がないか確認しておく。
だって、同じ町内に同じ名前の会社があったらマズイでしょう。

法務局で商号調査

会社名を決めた次の日に、
地元の法務局まで自転車をとばしていった。
幸いなことにうちから自転車で5分くらいのところに法務局がある。

法務局の窓口で「商号調査したいんですけど…」と言うと、
閲覧申請書みたいなのを渡されたので、
名前と住所を書いて提出。
すぐに呼ばれてコンピュータの前に連れて行かれた。
「はい。これで調べてください」

そうか、紙じゃなくてコンピュータ化されてるんですね。
YahooやGoogleで検索するみたいに会社名を打ち込むと、
その結果が画面に出てくる。

「アルジェント」

え? すでに区内に「株式会社アルジェント」がある?

しかし、住所を見るとうちから駅3つ分離れている。
しかも不動産業みたいなので業種もまったく違う。
これなら問題ないよね。

検索の結果はプリンタで印刷できるようになっていたので、
印刷したのをもらってきた。
会社作りの記念品。

ちなみに閲覧も印刷も費用はかからない。

会社のハンコを作る

会社名が決まったら、
ハンコをつくっておく。
Googleとかで「法人」「印鑑」と検索すれば、
ハンコ屋さんがいっぱい出てくる。
どこでもいいんだけど、
やっぱり安いところがいい。

うちが頼んだのはここです。
ハンコダイレクト
http://www.hanko-direct.co.jp/c-index.html(追記:閉店したようです)
「代表者印」「銀行印」「角印」のセットが6,040円だった。
しかも注文した翌日の夕方には届いた。
安くてスピーディー。

ハンコの役割だが、

  • 代表者印は実印。契約書とか作るときにはこれを押す
  • 銀行印は言うまでもない
  • 角印は普段使うハンコ。請求書とかにはこれを押す

うちは3つのハンコをつくったけど、
別に分ける必要もない。
ぜんぶ1つのハンコですませているところもある。
一点豪華主義で行ってもよかったかな。
あと「チタン」でできたハンコもあるらしい。
材質はいろいろあるので時間とお金に余裕があれば、
もっとこだわってもよかったかも。

コメント

タイトルとURLをコピーしました