フリーランスとして独立したとき、国民健康保険の保険料の高さにビックリしませんでしたか。税金よりもずっと高い金額の納付書が送られてきて、どうやって払おうかと悩んだ覚えがあります。フリーランスが知っておきたい国民健康保険の制度について紹介していきます。
国民健康保険に加入しないことはできる?
高額な納付書が送られてくると、「自分は健康で医者にかかることはないから大丈夫。健康保険に加入したくない」という気持ちになります。でも、日本に住んでいる人はなんらかの保険に加入しなければならず、フリーランスであれば原則として国民健康保険(以下、国保)に加入することになります。
法律には「国内に住所を持つ人は国保に加入する。ただし、他の健康保険に加入している人などは除外する」と書かれています。日本に住む人は誰でもなんらかの制度に加入する仕組みになっているのです。
ですから、会社で健康保険に入っている人や、親の保険証を使っている子どもなどは国保に入る必要はありません。会社をやめて独立したときや、アルバイトなどで収入が増えて扶養の枠を超えたときなどに、国保への加入手続きをすることになります。
国保は原則として市町村(東京23区は特別区)が運営しています。加入などの手続きは、市町村(及び特別区)が窓口になります。
国保が提供するサービスとは
会社員が加入している健康保険と比較しながら見ていきましょう。医療費の3割負担や高額療養費あたりの基本的なところは共通していますが、傷病手当金や出産手当金などは会社員の健康保険にしかないものです。
健康保険と同じところ
- 医療費の3割負担
- 6歳までの子どもと70歳以上で所得が少ない人は自己負担2割
- 高額療養費
- 医療費が高額になったときでも、自己負担を一定額にとどめる制度。
健康保険にはないサービス
- 傷病手当金
- 病気やケガでの欠勤中に、給料の3分の2が支給される(最長1年6カ月)。
- 出産手当金
- 産休中(産前6週・産後8週)に、給料の3分の2が支給される。国保だと40万円程度の一時金のみ。
市町村によっては給付の内容が微妙に異なることがあります。医療費の3割負担や高額療養費は全国一律ですが、たとえば、葬祭費(被保険者が亡くなったときに支給される)は市町村ごとに金額が異なります。また、国保組合では独自の給付を行うところもあります。
国保は世帯単位で保険料を計算する
国保は世帯単位で保険料を計算します。そして、世帯主から保険料を徴収することになっています。
ですから、世帯主は会社員で国保には入っていないのに、世帯主宛てに保険料の通知が送られてきます。たとえば、夫が会社で健康保険に入っていて、妻や子どもに扶養の基準を超える収入があって国保に入っているような場合でも、妻や子どもではなく夫宛てに通知が届きます。
また、会社員の健康保険と決定的に違う点として、国保には「扶養」という考え方がないことがあります。会社員は給料の金額だけで保険料が決まり、扶養家族の数で保険料が変わることはありません。追加で保険料を支払うことなく、扶養家族は3割負担で医療を受けられます。
しかし、国保では家族の数に応じて保険料が違ってきます。生まれたばかりの乳幼児も1人としてカウントされます。家族の数が増えるほど国保の保険料は上がっていきます。
扶養家族の数で国保の保険料が変わるということは、たとえば、夫が自営業で、妻が会社員の場合、子どもを妻の健康保険の扶養家族にできれば、夫の国保の保険料は安くなります。夫より妻の方が明らかに収入が多いなら扶養家族として認められますが、夫の収入が多いと難しいかもしれません。扶養家族として認定されるかどうかは、会社の健康保険の運営者ごとに判断が分かれる可能性があります。
保険料の通知は6月にやってくる
フリーランスの場合、3月15日までに所得税の確定申告を行うと、その内容が税務署から市町村に通知されます。そして、市町村で住民税と国保保険料の計算を行い、6月ごろに通知書と納付書が送られてきます。つまり、今年に支払う国保保険料は、去年の申告内容に基づいて計算されています。
住民税と国保は確定申告から時間がたって、すっかり忘れた頃に通知がくるので衝撃は大きいです。確定申告のときに住民税と国保もだいたいどれくらいの金額になるのかを計算しておき、通知が来たときに慌てることがないように心の準備をしておきましょう。
1年分の保険料が計算されたら、それを6月から翌年3月までの10回に分けて支払います(市町村によっては回数が異なることもあります)。もちろん1年分をまとめて支払ってもかまいませんが、まとめて支払ったからといって割引にしてくれる市町村はないと思います。国民年金だとまとめて支払えば保険料が安くなるのですが。
保険料は地域によって最大6.3倍も異なる
実は、市町村ごとに保険料の計算方法は異なり、保険料の金額も違ってきます。
保険料は次の4つの要素を組み合わせて計算されます。
- 所得割:所得に料率をかけて計算する
- 平等割:世帯ごとに一定の保険料がかかる
- 均等割:世帯内の加入者の数に応じて保険料がかかる
- 資産割:不動産等の固定資産によって保険料がかかる
4つの要素をすべて使う市町村もあれば、2つだけで計算するところもあります。ちなみに私が住んでいる文京区では、所得割と均等割の2つだけです。また、料率も市町村ごとに違うため、同じ所得や家族構成であっても、どこに住んでいるかで保険料が違うのです。
どれくらい保険料が違うのか。計算方法が統一されていないので単純比較は難しいのですが、厚生労働省の2017年の資料によると最大6.3倍の格差があるとのことです。保険料が高い市町村に住んでいるなら、安いところに引っ越しするのも一つの節約術かもしれません。
なお、国保の保険料は所得が増えると青天井で増えていくわけではなく、上限が定められています。40歳未満であれば82万円、40歳以上は99万円が保険料の上限です(2020年の場合)。いくら所得が増えたとしても上限以上にはなりません。
保険料の計算に使う「旧ただし書き所得」
所得割については、その世帯の中で国保に加入している全員の所得を合算した金額に料率をかけます。例えば、夫が会社で健康保険に入っていて、妻と長男が国保の場合、妻と長男の所得を合算してから所得割を計算します。そして、算出された保険料の通知は世帯主の夫に向けて送られます。
国保は家族みんなで協力して支払ってくださいということで、個別に保険料を支払う仕組みにはなっていません。これが所得税や住民税とは異なるところです。所得税や住民税はたとえ同居している家族であっても、それぞれ別々に税額を計算して納付します(実際は源泉徴収だけで終わることが多いのですが)。
所得割の計算に用いる所得は「旧ただし書き所得」と呼ばれます。所得税や住民税の課税所得とは異なり「所得控除」を考慮しません。事業所得だけのフリーランスであれば、事業所得の金額から33万円を引いた金額を用います。節税のために共済とかiDecoの掛金を払っても、国保の保険料が安くなることはないのです。
事業所得だけのフリーランスは、次の方法で保険料の大まかな金額が分かります。だいたい所得の10%が国保の保険料です。ただし、扶養家族がいるときは均等割の分だけ増えるので、ちょっと多めに見積もってください。
- 売上から経費を引いて、利益の金額を計算する
- 青色申告の場合は特別控除の金額を引く(10~65万円)
- 33万円を引く。これが「旧ただし書き所得」
- 旧ただし書き所得に0.1を掛ける。これがだいたいの保険料
- 家族が多いときは均等割の分だけ保険料が増える
40歳になったら介護保険もかかってくる
40歳を過ぎると、国保の保険料に加えて、介護保険の保険料も支払うことになります。介護保険料は国保といっしょに徴収されます。ですから、収入が同じであっても、40歳になったところで保険料が上がります。
先に国保の保険料には上限があることを紹介しましたが、年齢によって上限額が異なるのは介護保険の分です。40歳未満は82万円、40歳以上は99万円。つまり、17万円が介護保険料です。
介護サービスを受けられるのは65歳以上の高齢者だけではありません。40歳以上であれば、ガンや骨粗鬆症、脊柱管狭窄症、脳血管疾患、変形性関節症などの特定疾病で介護が必要になったときも給付を受けられます。自己負担1割で介護サービスを受けられます。
国保の保険料には軽減制度がある
おそらく所得の少ない人にとっては、所得税の金額はたいしたものではありません。それよりも住民税の方が高いし、それよりも国保の保険料の方が高いです。所得税がほぼゼロなのに、国保が10万円とか20万円になることもあります。
そのため、市町村によっては独自に国保の軽減制度を用意しています。たとえば、私が住んでいる文京区の場合、所得が一定額以下であれば均等割が2~7割軽減されます。国保の保険料では均等割の負担が大きいので、軽減を受けられればかなり助かるはずです。
それでも保険料の納付が困難であれば、市町村の窓口に相談してみましょう。税務署とは違って、柔軟に対応してもらえるようです。状況によっては保険料を軽減したり、納付期限をのばしてくれたりします。
国保組合に加入すれば保険料が安くなることも
国民健康保険組合とは、業種ごとに組織されたものです。建設や医師、美容、飲食などの業種に国保組合があります。自分の業種に国保組合があれば、市町村の国保の代わりにそちらに加入することができます。
保険料の計算方法は国保組合ごとに異なりますが、所得に関係なく世帯の人数だけで保険料を決めるところが多いため、所得が多い人であれば国保組合に入り直すだけで一年の保険料が十万円単位で安くなることもあります。
まずは自分の加入できる国保組合がないかを探してください。加入にはその業種に従事していることの証明が必要になるので、保険料が安いからという理由だけで自分とは関係のない業種の国保組合に潜り込むことはできません。
たとえば、ライターや漫画家、カメラマン、イラストレーターなどが加入できる「文芸美術国民健康保険組合」の場合、日本デジタルライターズ協会や日本漫画家協会などの業界団体の会員となって、その団体の証明書がなければ文芸美術国保組合には加入できません。各団体には入会の資格が定められているほか、その団体の入会金や会費が必要になることもあります。
以前は市町村国保と国保組合は保険料に大きな開きがありましたが、最近は国保組合の保険料も上がってきました。以前ほど大きな差はなくなってきたため、所得が多くて市町村国保の上限に近い保険料を支払っている人でなければ、あまりメリットはないかもしれません。
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