副業を利用したサラリーマンの節税策の問題点とは

先日、ネットの広告で「サラリーマンが家にある不要品をひとつ売るだけで年間数十万円の節税が可能」という文言を見かけました。税理士としては「どんなスキームなんだろう?」とすごく気になるので、申し込みをして中身を見せていただきました。ツッコミどころ満載です。

スキームを要約すれば、
商品販売の副業で大きな赤字を出し、本業の給与所得と損益通算することで所得税の還付を受けられる
というもの。

家にある一つの不要品をメルカリで販売する。そして、セミナー代や書籍代、携帯電話代、自家用車にかかる費用などをすべて経費として計算する。そうすると、赤字の決算書ができるので、会社の給与から源泉徴収されていた所得税の還付を受けられる。

これを真に受けて実行すると、大変なことになる恐れがあるので注意してください。

副業の赤字と本業の給与所得を損益通算できる制度はありますが、損益通算するためには副業が事業としての実態を持っている必要があります。家にある不要品を販売するのは、どう考えても事業と呼べるものではありません。

税務署はどういう基準で判定しているかというと

  • 帳簿を付けていたら事業所得、帳簿がなければ雑所得
  • 以下の場合は、帳簿を付けていても個別判断になる
    • 売上の金額が少ない場合(売上300万円以下で、本業の収入に対する割合が10%未満)
    • 営利性が認められない場合(赤字が続いていて、赤字を解消するための取り組みを実施していない)

上記基準で考えると、自宅の不要品販売は事業所得には該当せず、雑所得として扱われます。雑所得の赤字は損益通算をすることはできません。

別の見方をすれば、事業を始めたばかりで売上の金額が小さいときでも、しっかり事業として取り組んでいるのであれば、自信を持って赤字で申告してください。事業としての実態があるかどうかが判断の基準です。

その前に、不要品販売で利益が生じても所得税が課税されることはありません。所得税法9条では「生活に通常必要な動産の譲渡による所得」は非課税と決められています。利益が出ても課税されないかわり、損失が出てもその損失はないものとされます。

「ずっと副業の赤字で所得税の還付を受けてきた。だから大丈夫」と主張する人もいます。しかし、それは「私は信号無視を続けてきたけど、今までいちども事故にあったことがない」というのと同じです。「事故にあわなかったのは運が良かったね」というだけの話です。

「申告書を出したときに何も言われず、還付をうけることができた」という人も安心はできません。申告書を提出する段階では、税務署は何も言わずに受け付けてくれます。そして、申告書に明らかな誤りがある場合を除き、還付金を振り込んでくれます。

申告内容の細かいチェックが行われるのはその後であり、不審な点があれば税務署から問い合わせが来たり、税務調査が実施されたりします。不正が強く疑われる場合、すぐには税務調査を行わず、しばらく泳がせておくこともあります。不正な申告が例年続いていることを見た上で税務調査に入ることも少なくありません。

申告が適切でなかったときは、還付された金額をただ返すだけでなく、追徴課税(過少申告加算税や重加算税、延滞税など)を受けることになります。1年だけならともかく、何年も続けてやっていたらビックリするような金額になります。

なので、ネットのいい加減な情報を信じて、還付を受けようと考えるのはとても危険です。2023年3月にこんなニュースがありました。事業の赤字を利用した不正還付は、税務署も目を光らせています。

時事ドットコム

コメント

タイトルとURLをコピーしました